いつもと違う。
何、なに?
ゆっくり手を伸ばし、スマホを探る…手の行先にちょうどスマホがあった。
右手でスマホをつかみとり、目の高さにかざして時間を確かめる。
眩しいので目をしぼって、しか目面で画面に目を移す。
<<午前1時23分…123やん>> と、心がおもった。
トイレの引戸の音が聞こえた。
<<なんや、お義母さんがトイレに行きはったんや>> と、心がおもった。
何となく安心してスマホをもどす。
寝ているのと起きているのとの中間の放心状態…
<<お義母さんがトイレから出はるのを確認せな、アカン>> と、心がおもった。
ふたたびトイレの引戸の音が聞こえた。
<<なんや、いつもどうり、無事に終わりはったんや>> と、ひと安心。
<<おっしゃ、寝よう〜>> と、ふた安心。
ところが、あれ?
しばらくしてから、また、あの音が聞こえ出した。
サーッツ、サーッツ、サーッツ…一定の間隔で聞こえる。何かが擦れているような音。
やはり、いつもとは違う。何か違う。
いや、違いすぎる…と思うと同時に掛け布団を蹴り上げ、ベットから立ち上がっっていた。
<<偉い! エライぞ、私...>> と、心でおもった。
自分の部屋の襖を左手で引き開けてから、その左側にある義母の部屋の方向に目を向けた。
そこには、何と! 重いテーブルの椅子を後ろ向きで引き寄せる義母の姿があった。
義母は、自身がいつも、体の一部のようにお世話になっている<歩行器>ではなく、
自身がいつも、食事の時に座っている、実に重い木の回転椅子の肘掛けに手をおき、
綱引きをするように、後ろ向きで、実に重たい木の回転椅子を引きずり寄せているのだった。
(つづく)
何か擦れてるような音がする(1)
投稿日:2021年6月3日